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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)2861号 判決 1994年6月21日

原告

森本實・和泉義雄(反訴被告)

被告

屋嘉比曜子・上松一義(反訴原告)

主文

一  被告屋嘉比曜子は、原告森本實に対し、三万二〇四七円及びこれに対する平成五年二月二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  別紙目録記載の交通事故に基づく反訴被告の反訴原告に対する損害賠償債務は、四五万九二六七円を超えて存在しないことを確認する。

三  反訴被告は、反訴原告に対し、四五万九二六七円及びこれに対する平成五年二月三日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告森本實の被告屋嘉比曜子に対するその余の請求、反訴被告の反訴原告に対するその余の請求、反訴原告の反訴被告に対するその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、本訴反訴を通じ、これを一〇分し、その七を原告森本實及び反訴被告の負担とし、その余を被告屋嘉比曜子及び反訴原告の負担とする。

六  本判決は、一、三項に限り、仮に執行することかできる。

事実及び理由

第一請求

(本訴請求)

一  被告屋嘉比曜子は、原告森本實に対し、九万六一四二円及びこれに対する平成五年二月二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  別紙目録記載の交通事故に基づく反訴被告の反訴原告に対する損害賠償債務を二四万五五四三円を超えて有しないことを確認する。

(反訴請求)

反訴被告は、反訴原告に対し、六五万六六二九円及びこれに対する平成五年二月三日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、信号機により交通整理の行われていた交差点において、右折禁止区分のある中央車線から右折した普通乗用車(被追突車)に同車線を後続直進していた普通貨物自動車(追突車)が追突し、両車が破損した事故に関し、追突車の所有者が被追突車の運転者を相手に民法七〇九条に基づき損害賠償を求め、かつ、被追突車の所有者を相手に債務不存在確認の訴えを提起したところ、被追突車の所有者が追突車の運転者を相手に、民法七〇九条に基づき、損害賠償(物損、なお、反訴原告は受傷をしたが、通院の必要もないごく軽微なものであつた。)を求め、反訴を提起した事案である。

一  争いのない事実等

1  事故の発生

(一) 日時 平成五年二月二日午後二時〇七分ころ

(二) 場所 泉佐野市南中樫井三二四番地先交差点(以下「本件事故現場」ないし「本件交差点」という。)

(三) 事故車<1> 被告屋嘉比曜子(以下「被告屋嘉比」という。)が運転していた反訴原告所有に係る普通乗用自動車(大阪三五て五九五〇、以下「反訴原告車」という。)

(四) 事故車<2> 反訴被告が運転し、かつ、原告森本實(以下「原告森本」という。)が所有していた普通貨物自動車(泉一一た三〇七〇、以下「原告車」という。)

(五) 事故態様 信号機により交通整理の行われていた交差点において右折禁止区分のある中央車線から右折した反訴原告車に同車線を後続直進していた原告車が追突し、両車が破損し、反訴原告車の同乗者である反訴原告がごく軽微な負傷したもの

2  損害

反訴原告の損害

反訴原告は、本件事故により、反訴原告車の修理代として三五万〇八九〇円、同じく代車費用として四〇万二七三〇円の損害を受けた。

二  争点

1  過失相殺

(被告屋嘉比・反訴原告らの主張)

本件事故は、被告屋嘉比が直進車線を走行中、右折の合図を出し、ブレーキを踏まずに減速し、時速一〇キロメートル程まで減速の上右折したところ、反訴被告が車間距離を一メートル程度しかとらず、交差点手前から前方注視不十分のまま追走していたため、追突したものであり、本件事故は、専ら反訴被告の過失により生じたものであつて、同被告に過失はない。

(原告森本・反訴被告らの主張)

本件事故は、反訴被告が原告車を運転し、先行する被告屋嘉比運転の反訴原告車を追走し、中央車線を本件交差点に進入したところ、反訴原告車が中央車線から急制動の措置をとりつつ、突如大回り右折をしたため、原告車が避け切れず、反訴原告車に接触したものである。

したがつて、本件事故の発生に関する反訴原告車と原告車との過失割合は三対七であり、過失相殺により、反訴原告に生じた損害のうち、三割が減額されるべきである。

2  反訴原告の損害に関する全額賠償の合意の存在

(被告屋嘉比・反訴原告の主張)

本件事故当時、同事故現場において、被告屋嘉比、反訴原告、反訴被告が話合いをし、反訴原告の人身事故に関する損害賠償請求はしないかわりに、反訴被告は反訴原告の所有する反訴原告車の物損全額を支払う旨の合意が成立した。したがつて、同合意に基づき、反訴被告は、反訴原告車の物損全額を支払うべき義務がある。

3  その他損害額全般

(一) 反訴原告に生じた代車費用

(原告森本・反訴被告の主張)

本件事故後、反訴原告車の修理が完了したのは、平成五年二月二六日であり、反訴原告は、反訴原告車の引渡しを受けた。その間、反訴原告は、訴外オリツクスレンタカー株式会社(以下「オリツクスレンタカー」という。)から、レンタカー一台を借り受けていた。本件事故後、同日までのレンタカー代金は四〇万二七三〇円となる(同代車料については、原・被告間に争いがない。)。

ところが、反訴原告は、反訴原告車の修理工場である訴外大阪トヨタ自動車株式会社(以下「大阪トヨタ」という。)に右レンタカーを預け、本件事故の示談ができないことを理由にオリツクスレンタカーないし原告らが加入していた損害保険会社に右レンタカーの返還を拒否し、その指示を大阪トヨタに出した。その後、反訴原告は、平成五年三月二九日、右レンタカーを返還したが、同年二月二七日から同年三月二九日までのレンタカー代金は四七万二七七〇円に達しており、原告らは、そのうち、二八万一九九一円をオリツクスレンタカーに直接支払つている。

(被告屋嘉比・反訴原告の主張)

反訴原告が、右レンタカーを大阪トヨタに反訴原告車の修理完成に伴い、同車と引き換えに預けた事実は認めるが、その趣旨は、原告らが示談に来ず、修理完成日にレンタカーの引取りにも来ないので預けたものである。そもそも、反訴原告は、右レンタカーの借主は、反訴原告ではなく、原告らないしその加入する保険会社と理解しているのであるから、平成五年二月二七日以降のレンタカー代金の発生は、反訴原告と無関係の事象である。

(二) その他(概要は、別紙損害算定一覧表のとおり)

第三争点に対する判断

一  過失相殺

1  事故態様等

甲第四、第五号証、乙第二、第三号証、反訴被告・被告屋嘉比本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は、別紙図面のとおり、市街地にあり、南北に通じる(右折専用車線を含み)片側三車線の道路(幅員合計約九メートル、以下「本件道路」という。)と東西に通じる道路(以下「交差道路」という。)との信号機により交通整理の行われている交差点にある。

本件道路の南行車線は、本件交差点北詰横断歩道手前の停止線から約三二メートル北方より二車線から(右折専用車線の増加により)三車線に増え、以後、東から直進・左折車線、直進車線、右折専用車線となつている。同道路は、交通が頻繁であり、転回禁止、駐車禁止あり、制限速度は時速六〇キロメートルに規制されていた。

被告屋嘉比は、反訴原告車を運転し、本件道路南行車線を時速五〇ないし六〇キロメートルで進行中、本件交差点で右折するため、東から一車線目の直進、左折車線から直進車線に車線変更し、右折の合図を出したが(反訴被告は、同車は右折の合図を出さなかつたと供述するが、被告屋嘉比の供述及び弁論の全趣旨に照らし、信用できない。)、同車線からも右折が可能であるものと軽信し(右軽信の理由は、必ずしも定かではないが、別紙図面のとおり、同車線は、右折専用車線が出現する以前は、直線・右折可能との表示が出ていたことから、同車線からも右折が可能と判断した可能性がある。)、本件交差点でハンドルを右に切り、右折の体勢に入り、同交差点中央付近でいつたん停止した。反訴被告は、原告車を運転し、反訴原告車の後続車として、本件道路南行車線の東から二車線目の直進車線を時速五〇キロメートルで進行中、数メートル先行していた反訴原告車が、本件交差点手前で減速し、同交差点を右折し始めたことに気付いたが、同車線が直進車線であつたことから、右折することはないものと軽信し、同車の右折の合図にも気付かず、車間距離を十分とることなく追従していたため、同交差点中央付近で停止した反訴原告車に気付き、急制動の措置を講じたが及ばず、同車に自車を追突させた。

2  過失相殺に対する判断

以上の事実に基づき、反訴被告と被告屋嘉比との過失割合について検討すると、本件事故は、被告屋嘉比が、右折の合図を出しつつ、本件道路南行車線の東から二車線目の直進車線を進行中、同交差点中央付近で右折のため停止したところ、右折の合図を見落し、かつ、車間距離を十分にとつていなかつた反訴被告が追突したものであり、被告屋嘉比の減速から停止に至る経過も急制動の措置をとつての停止であるとは認め難いから、本件事故が生じた主たる原因は反訴被告の過失によるものというべきである。しかし、被告屋嘉比にも、直進車線であるにもかかわらず右折しようとし、同車線に車体を残しつつ停止した点に若干の落度あるというべきであり、前記反訴被告の過失と対比すると、被告屋嘉比には本件事故の発生に関し一割の過失がある(同被告と反訴被告との過失割合は一対九)と認めるのが相当である。

なお、反訴原告は、反訴原告車の同乗者ではあるが、同車の運行供用者でもあり、同車の運行を支配し、運行による利益を得ていたのであるから、損害の公平な分担の理念に照らし、反訴原告に生じた反訴原告車に関する損害についても、過失相殺の法理により、被告屋嘉比の過失割合と同率の減額をするのが相当である。

したがつて、後記本件事故により生じた損害から、右過失割合に応じた減額をすべきことになる。

二  反訴原告の損害に関する全額賠償の合意の存在

反訴原告は、本件事故当時、同事故現場において、被告屋嘉比、反訴原告、反訴被告が話合いをし、反訴原告の人身事故に関する損害賠償請求はしないかわりに、反訴被告は反訴原告の所有する反訴原告車の物損全額を支払う旨の合意が成立したから、同合意に基づき、反訴被告は、反訴原告車の物損全額を支払うべき義務があると主張する。

しかし、本件事故当時、同事故現場において、反訴原告と反訴被告との交渉経過を目撃していた証人山田文英の証言によれば、同事故現場で反訴被告が述べていたのは、反訴原告車の修理は反訴被告側がするという程度に過ぎないこと、反訴被告の本人尋問の結果においても、同原告が反訴原告に述べたのは、反訴原告車の損害の補填は保険で行うという趣旨に過ぎないことがそれぞれ認められ、しかも、同時点においては、反訴原告車の物損の額自体の確定が困難であり、損害賠償額について何らかの合意をすること自体、無理があつたことなどに照らし、前記反訴原告の主張は採用できない。

三  損害(算定の概要は、別紙損害算定一覧表のとおり)

1  原告森本の損害

(一) 原告車の修理代(主張額二七万六四九三円)

甲第六号証の二及び弁論の全趣旨によれば、本件事故による原告車の修理代(消費税を含む。)として二七万六四九三円を要したことが認められる。

(二) 原告車の代車費用(主張額四万三九八一円)

甲第六号証の一によれば、本件事故による原告車の代車費用として、四万三九八一円を要したことが認められる。

(三) 小計及び過失相殺

以上を合計すると三二万〇四七四円となるところ、前記のとおり、過失相殺により、同額から九割を減額すると、残額は、三万二〇四七円(一円未満切り捨て、以下同じ)となる。

2  反訴原告の損害

(一) 本件事故により反訴原告に、反訴原告車の修理代三五万〇八九〇円、代車費用(訴外オリツクスレンタカーから借り受けた車両に関する平成五年二月二六日までの分)である四〇万二七三〇円の損害が生じたことは当事者間に争いがない(なお、甲第三号証によれば、反訴原告は、反訴被告から、右のうち二八万一九九一円の支払いを受けていることが認められる。)。

(二) 反訴原告車の評価損(主張額一八万五〇〇〇円)

乙第一号証(事故減価額証明書)によれば、財団法人日本自動車査定協会は、本件事故により反訴原告車に一八万五〇〇〇円の評価損が生じたとの証明をなしていることが認められる。しかし、右評価額は修理費用の半額を超える額に達しているところ、評価の算定根拠は一切明らかではないので、右証明をもつて直ちに反訴原告車に同額の評価損が生じたと認めることはできない。

甲第二号証によれば、反訴原告車は、平成二年三月一日に登録され、本件事故当時、既に約二年一一か月を経過していたこと、他方、車種はトヨタセルシオであり、いわゆる国産の高級車であること、本件事故による損傷は、バンパー、バツクパネルを介して左クオーターパネル、フロアー、リアサイドメンバーにまで衝撃が波及していることが認められ、これらを比較考慮すると、前記修理代の約二割に当たる七万円をもつて、本件事故による評価損と認めるのが相当である。

(三) なお、乙第三号証及び弁論の全趣旨によれば、反訴原告は、平成五年二月二六日、修理を完了し、反訴原告車の引渡しを受けているところ、反訴原告は、訴外オリツクスレンタカーから借りていた代車をトヨタ自動車に預け、原告が反訴原告車の修理代金、評価損に関し話合いに来るまで返還しないとの対応をしたことが認められるが、同日以後の訴外オリツクスレンタカーからの代車費用は、その必要性を認めることができない。

3  小計及び過失相殺

以上の損害を合計すると、八二万三六二〇円となるところ、前記のとおり、過失相殺により、一割を減額するのが相当であるから、同減額後の残額は、七四万一二五八円となる。

四  損害の填補

前記認定のとおり、本件事故により反訴原告に生じた代車費用に関し二八万一九九一円の支払いがなされたことが認められるから、前記七四万一二五八円から同額を差し引くと、残額は四五万九二六七円となる。

五  まとめ

以上の次第で、原告森本實の被告屋嘉比曜子に対する請求は三万二〇四七円及びこれに対する本件事故の日である平成五年二月二日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で、反訴被告の反訴原告に対する請求は、四五万九二六七円を超えて存在しないことの確認を求める限度で理由がある(平成五年二月二六日以後の代車費用を同原告が負担するか否かにつき争いがあるから、本訴における確認の利益もあるものと解するのが相当である。)からこれらを認容し、その余は理由がないからいずれも棄却することとし、反訴原告の反訴被告に対する請求は、四五万九二六七円及びこれに対する本件事故の翌日である平成五年二月三日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれらを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 大沼洋一)

損害算定一覧表事故現場所在地 泉佐野市南中樫井324番地先(国道26号)別紙 交通事故目録

(一) 日時 平成五年二月二日午後二時〇七分ころ

(二) 場所 泉佐野市南中樫井三二四番地先交差点

(三) 事故車<1> 被告屋嘉比曜子が運転していた被告・反訴原告上松一義所有に係る普通乗用自動車(大阪三五て五九五〇)

(四) 事故車<2> 原告・反訴被告和泉義雄が運転し、かつ、原告森本實が所有していた普通貨物自動車(泉一一た三〇七〇)

(五) 事故態様 信号機により交通整理の行われていた交差点において右折禁止区分のある中央車線から右折した反訴原告車に同車線を後続直進していた原告車が追突し、両車が破損し、反訴原告車の同乗者である反訴原告が負傷したもの

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